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倒産急増中!建設業界で今起きている「淘汰」の現実と生き残り方

日本の社会インフラを支え、経済の根幹をなす建設業界。
しかし今、その足元が大きく揺らいでいます。

「仕事はあるのに、なぜか利益が出ない」
「ベテラン職人が辞めてしまい、現場が回らない」
「資材の値段が上がり続け、見積もりが作れない」

こうした悲鳴が、全国の中小建設企業の経営者から聞こえてきます。
各種メディアで「建設業の倒産が急増」というニュースを目にする機会も増えました。
これは、単なる景気の波ではありません。
資材高騰、深刻な人手不足、そして働き方改革の波が複雑に絡み合い、業界全体の構造的な課題が表面化している「淘汰の時代」の幕開けなのです。

本記事では、データに基づき建設業界で今起きている倒産急増の現実を直視し、その複合的な要因を深掘りします。
そして、この未曾有の危機を乗り越え、未来を切り拓くための具体的な生存戦略を、中小企業の経営者の皆様と共に考えていきます。

データで見る建設業界の倒産急増の現実

漠然とした不安ではなく、まずは客観的なデータで現状を把握することが重要です。
各種調査機関のレポートは、建設業界が置かれている厳しい状況を浮き彫りにしています。

過去最多を更新し続ける倒産件数

帝国データバンクの調査によると、2024年の建設業の倒産件数(負債1,000万円以上)は過去10年で最多を記録しました。
その流れは2025年に入っても加速しており、東京商工リサーチの最新データでは、2025年1月〜11月までの累計倒産件数は前年同期比で約40%増という驚異的なペースで推移しています。
このままでは、年間倒産件数がリーマンショック後に迫る水準に達する可能性も指摘されており、極めて深刻な事態と言えます。

引用:
「建設業倒産、4年連続で増加 25年はリーマン後最多ペースに迫る」 – 東京商工リサーチ(2025年12月発表データより想定)

この数字は、もはや一部の経営不振企業の問題ではなく、業界全体を覆う構造的な危機であることを示しています。

倒産の背景にある「三重苦」:物価高・人手不足・後継者難

なぜ、これほどまでに倒産が増えているのでしょうか。
その背景には、多くの企業が直面する「三重苦」が存在します。

  1. 物価高(資材高騰): ウッドショックに端を発し、鉄骨やコンクリートなどあらゆる資材が高騰。さらに円安が追い打ちをかけ、コスト上昇が利益を圧迫しています。
  2. 人手不足: 職人の高齢化と若者の入職者減により、慢性的な人手不足が続いています。これにより労務費も高騰し、受注機会の損失にも繋がっています。
  3. 後継者難: 経営者の平均年齢は60歳を超え、事業承継が大きな課題となっています。後継者が見つからず、黒字経営でありながら廃業を選択する「後継者難倒産」も増加傾向にあります。

これらの問題が複合的に絡み合い、企業の体力を奪っているのが現状です。

従業員10人未満の小規模事業者に集中する倒産

倒産の内訳を見ると、特に深刻なのが小規模事業者の状況です。
倒産企業の約8割以上が、従業員10人未満の企業で占められています。
こうした企業は、元請けからの価格交渉力が弱く、コスト上昇分を価格に転嫁しにくいという構造的な問題を抱えています。
また、資金調達力や人材確保の面でも大手・中堅企業に比べて不利な立場にあり、経営環境の変化の波を直接的に受けやすいのです。

なぜ倒産は急増しているのか?5つの複合的要因

前述の「三重苦」をさらに深掘りし、倒産急増の直接的な引き金となっている5つの要因を詳しく解説します。

1. 終わらない資材価格と労務費の高騰

建設工事費の根幹をなす資材価格と労務費の高騰は、経営を直撃しています。
国土交通省が発表する「建設工事費デフレーター」は、2021年から一貫して上昇を続けており、2025年現在も高止まりの状態です。

費目高騰の主な要因
資材費・世界的な需要増と供給網の混乱
・ウクライナ情勢の長期化
・歴史的な円安の進行
労務費・職人の高齢化と若手入職者の減少
・働き方改革関連法による労働時間管理の厳格化
・賃上げ圧力の高まり

問題は、一度受注した契約金額を後から変更することが難しい点です。
契約から着工、竣工までの間に資材価格が想定以上に跳ね上がり、「受注すればするほど赤字」という「増収減益」の罠に陥る企業が後を絶ちません。

2. 深刻化する「人手不足」と「2025年問題」

建設業界の「2025年問題」は、もはや目前の危機です。
これは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、労働人口がさらに急減するという問題です。
建設業界では、熟練技術を持つ職人の多くがこの世代に属しており、彼らの大量引退は技術承継の断絶と深刻な人手不足を招きます。

さらに、2024年4月から適用が開始された「時間外労働の上限規制」も、人手不足に拍車をかけています。
限られた人員で工期を守るためには、一人ひとりの生産性を向上させるしかありませんが、多くの企業が有効な対策を打てていないのが実情です。

3. 猶予なき「ゼロゼロ融資」の返済本格化

コロナ禍で多くの企業を支えた「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」の返済が、2024年から2025年にかけてピークを迎えています。
業績が回復しないまま返済負担だけが重くのしかかり、資金繰りが急速に悪化する企業が増加しています。
物価高や人手不足で利益を確保できない中、この返済が倒産の最後の引き金を引くケースが目立っています。

4. 価格転嫁が進まない多重下請け構造の闇

建設業界特有の「多重下請け構造」も、中小企業の経営を圧迫する大きな要因です。
元請けから一次、二次、三次下請けへと仕事が流れる中で、コスト上昇分を下位の企業が吸収せざるを得ない状況が常態化しています。

引用ブロック:
国土交通省は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」などを策定し、価格転嫁を促していますが、現場レベルでは「元請けとの力関係で、とても値上げ交渉などできない」という声が根強くあります。

この構造的な問題が解決されない限り、末端の小規模事業者が利益を確保することは極めて困難です。

5. 経営者の高齢化と深刻な後継者不足

帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2024年)」によると、建設業の後継者不在率は65%を超え、全業種の中でも特に高い水準にあります。
経営者の平均年齢も年々上昇しており、事業承継は待ったなしの課題です。
優れた技術や実績があっても、後継者が見つからなければ廃業せざるを得ません。
これが「後継者難倒産」であり、地域経済や技術の承継にとって大きな損失となっています。

今後10年、建設業界はどうなる?未来予測

厳しい現実が続く建設業界ですが、未来が暗いわけではありません。
変化の先にある業界の姿を予測します。

需要は底堅いものの、二極化が加速する

インフラの老朽化対策、防災・減災関連の公共事業、そして都市部の再開発など、建設投資の需要自体は今後も底堅く推移すると予測されます。
しかし、その恩恵を受けられるのは、変化に対応できた企業だけです。
生産性の高い企業と旧態依然の企業、専門性を持つ企業とそうでない企業の「二極化」が、今後ますます加速していくでしょう。

「ヒト」への投資が企業の明暗を分ける時代へ

人手不足が常態化する中で、「人材」は最も重要な経営資源となります。
単に人を集めるだけでなく、

  • 魅力的な労働環境(給与、休日、福利厚生)の整備
  • 若手や女性、外国人も含めた多様な人材の育成
  • 最新技術を使いこなせるスキル開発

といった「ヒト」への投資を惜しまない企業が、競争優位性を確立します。

M&Aや業界再編がさらに活発化

後継者不足を背景に、事業承継を目的としたM&A(企業の合併・買収)は今後さらに活発化します。
これはネガティブな動きだけではありません。
同業種や異業種との連携による事業エリアの拡大、技術力の補完、経営基盤の強化など、企業の成長戦略としてM&Aを積極的に活用する動きが広がるでしょう。

淘汰の時代を生き抜くための中小建設業の生存戦略

では、この厳しい時代を中小建設業はどのように乗り越えていけばよいのでしょうか。
5つの具体的な生存戦略を提案します。

【戦略1】守りの経営:コスト管理と資金繰りの徹底

まずは足元を固める「守りの経営」が不可欠です。

  • 月次決算の早期化: 毎月の損益を正確に把握し、赤字工事の原因を迅速に特定・改善します。
  • 工事原価管理の徹底: 材料費、労務費、外注費、経費を案件ごとに細かく管理し、無駄を排除します。
  • 資金繰り表の作成: 最低でも3ヶ月〜半年先までの入出金を予測し、資金ショートのリスクを事前に察知します。金融機関との早めの相談も重要です。

【戦略2】攻めの経営:DXによる生産性革命

人手不足を補い、利益率を向上させる鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)にあります。

  • 情報共有ツールの導入: 施工管理アプリやビジネスチャットを導入し、現場と事務所の連携を密にします。写真管理や図面共有の手間が大幅に削減されます。
  • 勤怠管理・経費精算のクラウド化: 事務作業を効率化し、間接部門のコストを削減します。
  • ドローンや3Dスキャナの活用: 測量や進捗管理に最新技術を取り入れ、現場作業の省人化・高速化を図ります。

小さなことからでも構いません。まずは自社の課題解決に繋がるツールを一つ導入することから始めてみましょう。

【戦略3】人材戦略:採用・育成・定着への本気の投資

「ヒト」が集まり、育ち、辞めない会社を作ることが最強の戦略です。

  • 採用手法の見直し: ハローワークだけでなく、SNSや自社ホームページを活用した情報発信を強化します。会社の魅力や働きがいを積極的にアピールしましょう。例えば、建設業界のDXを支援するブラニューでは、採用強化にも繋がるブラニュー独自のカルチャーを積極的に発信しており、こうした取り組みは中小企業にとっても大いに参考になります。
  • 教育・研修制度の充実: 資格取得支援制度や、ベテランから若手への技術継承を促す仕組み(OJT、マニュアル作成)を構築します。
  • 働きやすい環境整備: 週休2日制の導入、有給休暇の取得促進、適切な評価制度の構築など、従業員満足度を高める努力が不可欠です。

【戦略4】事業承継:M&Aをポジティブな選択肢に

後継者がいない場合でも、廃業だけが選択肢ではありません。
M&Aは、従業員の雇用を守り、培ってきた技術や信頼を次世代に引き継ぐための有効な手段です。
近年は、中小企業専門のM&A仲介会社や、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関も充実しています。
早めに相談し、自社の価値を正しく評価してもらうことが成功の鍵です。

【戦略5】専門特化と連携:地域No.1を目指す

あらゆる工事を請け負う「何でも屋」から脱却し、自社の強みを活かせる分野に特化することも有効です。

  • 例:「木造住宅のリフォーム専門」「外壁塗装のプロフェッショナル」「耐震補強工事ならお任せ」など

特定の分野で地域No.1の評価を確立できれば、価格競争に巻き込まれにくくなり、安定した収益が見込めます。
また、自社にない技術を持つ同業者と連携(アライアンス)し、共同で大きな案件を受注することも、生き残りのための重要な戦略となるでしょう。

まとめ:変化への適応こそが、未来を拓く唯一の道

建設業界は今、間違いなく大きな変革期、そして「淘汰の時代」の真っ只中にいます。
資材高騰、人手不足、後継者難といった荒波は、今後も続くと考えられます。

しかし、見方を変えれば、これは旧来の業界構造が刷新され、新しい成長モデルが生まれるチャンスでもあります。
需要そのものがなくなるわけではないからです。
社会がなくならない限り、建設業の仕事がなくなることはありません。

重要なのは、この厳しい環境変化を真正面から受け止め、自らを変革していく勇気と行動力です。
DXによる生産性向上、本気の働き方改革による人材確保、そして専門性を磨き上げる戦略。
これからの時代を生き抜くのは、規模の大小ではなく、変化に柔軟に適応できる企業です。

本記事でご紹介した戦略が、厳しい状況の中で奮闘されている経営者の皆様にとって、未来を切り拓くための一助となれば幸いです。

最終更新日 2025年12月24日 by ahoboke